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専用実施権が設定登録された後、
特許権者が第三者に実施権を許諾する法的効果について

特許権を取得した後、ビジネス上の理由から他人に特許の実施を許諾することはよくあることである。その実施許諾はさらに、(1)専用実施権、(2)通常実施権、(3)独占的通常実施権に分けられる。このうち、専用実施権の権利が最も強く、台湾専利法第62条第3項には、「専用実施権者は、実施権の範囲内で、特許権者および第三者による当該特許の実施を排除することができる。」と規定されている。仮に特許権者が先に相手方に専用実施権を許諾した後、また第三者に実施権を許諾した場合に、先に専用実施権が許諾された相手方に対する救済について、以下の判決に基づいて説明する。

原告の専用実施権者である綠茵生技株式会社(以下「綠茵社」という)は、被告の特許権者である中央研究院と特許I558403(ガラクト脂質を豊富に含む植物抽出物及びその使用。以下「係争特許X」という)およびその関連する研究開発成果について専用実施権許諾契約(以下「許諾契約A」という)を20144月に締結し、そして専用実施権を知的財産局に登録した。その後、中央研究院は、同年9月に財団法人生物技術開発センター(以下「生物技術センター」という)と特許I347192(抗がん・抗炎症活性を有する抽出物とガラクト脂質の組成物。以下「係争特許Y」という)について別の専用実施権許諾契約(以下「許諾契約B」という)を締結し、そして、生物技術センターは訴外人の中美兄弟製薬株式会社(以下「中美兄弟社」という)に実施権を再許諾した。原告は、許諾契約Aと許諾契約Bの許諾範囲が重なっていると考え、先に締結された許諾契約Aに基づいて、その重複する部分について他人の実施を排除することができるとし、専利法第62条第3項、民法第71[1]、および無権処分に関する規定により、許諾契約Bにおける重複する部分について無効の確認訴訟を提起した。

被告の中央研究院と生物技術センターは、まず、許諾契約Aと許諾契約Bはそれぞれ許諾範囲が異なり、そして、実施権許諾契約は債権契約であり、債権の相対性によれば、許諾契約Bの有効性は原告と関係がなく、また、原告は以前中美兄弟社に対して特許権侵害による損害賠償を請求したが、裁判所はすでに中美兄弟社が係争特許Xを侵害していないと判断したため、本件訴訟における確認の利益を欠くと抗弁した。

知的財産及び商業裁判所(以下「知商裁判所」という)は、まず、許諾契約Bが有効であるか否かにより、許諾契約Aに基づいて原告に許諾された実施権の技術内容の私法上の地位に不安定な状態が生じており、これは確認判決により除去することができるため、原告に本件確認訴訟における確認の利益が存在し、当該訴訟を提起することができると判断した。

しかし、特許権は準物権の性質を有する無体財産権であり、動産物権に準じて引渡すことができないため、不動産物権に準じて公示登録方式と登録対抗主義が採用されている。その「登録対抗」とは、権利行使により異なる権利間で対立、矛盾、相互の抑制・均衡が発生した場合、登録の有無を権利帰属の判断基準とすることをいう。そして、専利法第62条第1[2]によると、実施権の設定登録は効力要件でなく対抗要件であることが分かる。許諾契約Bは債権契約であるため、被告の中央研究院に許諾契約Bの対象または範囲に対して処分権限があるか否かにかかわらず、債権契約の相対性に基づいて有効である。また、専利法第62条第3項とその制定当時の提案理由によると、専用実施権者は許諾された範囲内で独占排他権と実施権を取得する。つまり、専用実施権の実体法上の法的効果は特許権者および第三者の実施を排除することができることである。したがって、許諾契約Aの存在は許諾契約Bの成立・効力とは関係がない。

許諾契約Bが有効であると認定されたにもかかわらず、知商裁判所は、許諾契約Aと許諾契約Bの許諾範囲を比較し、係争特許Xと係争特許Yは同一の発明ではないと判断し、そして原告が許諾契約Aにおいて係争特許X以外の技術を特定しなかったため、最終的に原告の訴えを棄却した。

当所のコメント

特許権者が、その特許についてまず相手方と専用実施許諾契約を締結した後、同一の特許の実施権を第三者に許諾し、かつ第三者がその特許を実施している場合、専用実施権者は、侵害の排除と損害賠償の請求をしたい場合、専利法の関連規定に基づいて「給付訴訟」を提起すべきである。

しかし、本件訴訟に先立ち、原告の専用実施権者である綠茵社は、訴外人の中美兄弟社に対して特許権侵害訴訟を提起したが、最終的に非侵害であると判断され、その訴えは棄却された。その特許権侵害訴訟では、本件訴訟に係わる被告の中央研究院と生物技術センター間の許諾契約Bや、生物技術センターが中美兄弟社に実施権を再許諾した事実は争点にならなかった。したがって、原告の綠茵社は、まず中央研究院と生物技術センター間の許諾契約Bの有効性を確認する方式により、許諾契約Aと許諾契約Bの許諾範囲が重なっていることを間接的に確認し、そして、中央研究院と締結した許諾契約Aに基づいて損害賠償請求を別途行ったものと推測される。

前後の訴訟の本質を分析すると、原告の目的は第三者の侵害を排除することであるが、前後の訴訟の訴訟物の法律関係が異なるため、原告は間接的に再び専用実施権の侵害の有無の確認を試みることができたわけである。しかし、専利法第62条第3項およびその制定当時の提案理由によると、特許権者が第三者と同じ許諾範囲で再び実施権許諾契約を締結した場合、その契約が無効であるという結論には至らない。本件は現在控訴審で審理中である。

 

※以上のコメントは本所の立場を代表するものではなく、読者の参考に供するためのものです。関連する法律問題については当所までお問い合わせください。



[1] 民法第71条では、「法律行為は、強行規定または禁止規定に反する場合、無効である。ただし、その規定によって無効とならないときは、この限りでない。」と規定されている。

[2] 専利法第62条第1項では、「特許権者が、その特許権を他人に譲渡し、信託し、実施権を許諾し、又は質権を設定する場合、特許主務官庁に登録しなければ、第三者に対抗することができない。」と規定されている。

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