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 実用新案権者はECプラットフォーム上の商品を権利侵害の疑いで通報する際に注意義務を果たさなければ、公平交易法上の損害賠償責任を負う

台湾のある実用新案権者がECプラットフォームで販売されている商品に権利侵害の疑いがあると通報する際に、注意義務を果たさなかったため、当該ECプラットフォームの販売事業者(以下「被控訴人」という)の権益が損なわれたとの主張に係る民事訴訟事件で、知的財産及び商業裁判所は、2021923日に、当該実用新案権者が権利を行使する際に事実調査を怠ったことは、取引秩序に影響を及ぼし且つ著しく公正を失するものであるため、明らかに公平交易法第25[1]に違反すると認定し、同法第30[2] に基づき当該事件の第一審の裁判所の下した判決(事件番号:109年度民公訴字第5号)を維持するとともに、当該実用新案権者の勤務先である橘能国際股份有限公司(以下「控訴人」又は「橘能国際」という)は損害賠償責任を負うべきとの第二審判決(事件番号:110年度民公上易字第1号)を下した。

本事件の第二審では主に争点が二つある。一つ目の争点は「控訴人と被控訴人が公平交易法第2条に規定された事業者で、同法が適用されるか」で、二つ目の争点は「実用新案権者が、被控訴人が自身の実用新案権(以下「係争実用新案」)を侵害したとECプラットフォームに通報した行為は、公平交易法第25条違反に当たるかどうか。また、実用新案権者は通報する際に、ECプラットフォームが規定する資料を提供したかどうか」である。これについて、第二審の裁判所の下した判断は、以下のとおりである。

ü   両当事者は、公平交易法の適用を受ける事業者であり、同法に規定された競争関係にある:

(1)  被控訴人は、実際に商品を輸入して販売している事実があるため、公平交易法第2条第1項第3号にいう「その他商品又は役務を提供して取引をする個人又は団体」の事業者に属する。一方、実用新案権者の勤務先である橘能国際は、法律に基づいて設立された会社であり、同法第2条第1項第1号にいう「会社」に属するため、公平交易法にいう事業者である。

(2)  控訴人と被控訴人は同一のECプラットフォームで関連商品を販売しており、より有利な価格、品質、サービス、技術などを通して積極的に潜在的又は既存の取引相手を獲得しようとしていることから、両当事者は公平交易法第4[3]に規定する競争関係にあることが分かる。

ü   控訴人が、被控訴人が自身の係争実用新案を侵害したと通報した行為は、取引秩序に影響を及ぼし且つ著しく公正を失するものである:

(1)  当該ECプラットフォームの苦情申立・通報規定によると、実用新案権者は侵害通報の際に、実用新案登録証、実用新案技術評価書、侵害鑑定報告書などの証明書類を提出しなければならない。しかし、当該実用新案権者は、侵害通報の際に、係争実用新案と被控訴人の販売している商品の対比鑑定報告書や実用新案技術評価書を一切提出しなかったため、ECプラットフォームの規定した苦情申立、侵害通知又は侵害通報の規定を満たしていなかったことが分かる。

(2)  控訴人所有の実用新案技術評価書に記載されている唯一の独立項である請求項1の対比結果コードは1である。つまり、新規性を有しないことを意味している。控訴人は主観的に係争実用新案の有効性について相当程度の不確定性があることを知りながら、客観的な証拠を取得する前に直接ECプラットフォームへ侵害通報を行った結果、被控訴人の販売商品は削除された。しかしながら、被控訴人が台湾経済研究院に作成依頼した侵害鑑定報告書により、被控訴人の商品は権利侵害に当たらないことが証明された。

(3)  このことから分かるように、控訴人が被控訴人の商品について侵害通報した目的は、係争実用新案を保護し権利侵害を防ぐことでなく、他の競争者又はその取引相手を妨害するための道具として係争実用新案を使用することにある。このような権利行使は、取引秩序に影響を及ぼし、著しく公正を失するものであるため、公平交易法第25条の規定に違反する。

特許又は意匠が、権利を取得するために実体審査を経なければならないのに対して、実用新案は方式審査を経ただけで権利化することができるため、実用新案権の有効性は不確実なものであることが分かる。実用新案権者は、実用新案権を行使しようとする場合、専利法第116条の規定により実用新案技術評価書を提示しなければならない。これは、実用新案権者が権利を濫用し違法行為となるのを防ぐために、実用新案権者にまず所有の実用新案権が有効であることを確認した上で権利行使することを促すものである。本事件の控訴人が行った侵害通報は、明らかに権利を濫用した違法行為に属し、他人の権益を損なうものである。このことから分かるように、公平交易法違反という本事件の控訴人と同じ轍を踏まないために、実用新案権者は権利行使をする際、専利法の関連規定を遵守するだけでなく、注意義務を果たしたかにも注意しなければならない。一方、警告書を受取った場合は、積極的に専門家に相談し、非侵害鑑定書を作成すると同時に、自分自身の権益を守り、相応の賠償を求めるために、係争実用新案権に対する非侵害及び(又は)係争実用新案権が有効でないことを主張して、権利者に対し侵害不存在確認の訴訟を提起することを考慮すべきである。



[1] 25条「この法律に別段の定めがある場合を除き、事業者は、その他取引秩序に影響を与える欺瞞的な又は著しく公正を失する行為をしてはならない。」

[2]30条「事業者がこの法律の規定に違反して他人の権益を侵害した場合、損害を賠償する責任を負わなければならない。」

[3] 4条「この法律において競争とは、二以上の事業者が市場において、より有利な価格、数量、品質、役務又はその他の条件をもって、取引の機会を獲得する行為をいう。」

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