台湾 商業事件審理法が2021年7月1日より正式に施行
【出典:司法院ウェブサイト】
商業紛争をより迅速、適切且つ専門的に処理し、商業紛争の審理効率を高めるために、台湾の最高司法機関である司法院は、2019年に「商業事件審理法草案」を提出した。同年12月17日に立法院(日本の国会に相当)で可決された「商業事件審理法」は2020年1月15日に総統令により公布され、2021年7月1日より施行された。なお、「商業事件審理法」が正式に施行される前に裁判所にすでに係属している事件は、係属時の法律規定に従って手続を行い、「商業裁判所」へは移管されず、2021年7月1日以降(当日も含む)、裁判所に係属する事件のみ「商業事件審理法」が適用される。
「商業事件審理法」は、「総則」、「商業調停手続」、「商業訴訟及び保全手続」、「商業非訟手続」、「上訴、抗告及び再審手続」、「罰則」及び「附則」の計7章81条からなり、そのポイントは下記のとおりである。
一、商業事件の種類及びその審級管轄(第2条、第71条)
商業事件は、商業訴訟事件と商業非訟事件に分けられ、商業裁判所が専属管轄する。商業裁判所とは、知的財産及び商業裁判所を指し、二級二審制を採用する。商業事件の裁判については、第一審管轄権は高等裁判所が有しており、規定に別段の定めがある場合を除き、最高裁判所に上訴又は抗告することができる。
二、弁護士強制制度(第6条、第7条、第9条、第11条、第12条)
当事者、関係者などの権益を保護し、手続を順調に進めるために、弁護士が手続代理人として手続を行い、本人に対して効力が生じる弁護士強制制度を採用する。
三、電子書状伝送システムの導入(第14条、第15条)
書状送達の迅速化、審理効率の向上、人力や費用の節約のため、当事者、関係人又は手続代理人などが裁判所に書状を提出する場合、電子書状伝送システムにより送達しなければならない。電子書状伝送システムにより送達しなかった場合、提出の効力は生じない。
四、商業調査官の設置(第17条)
商業裁判所は、裁判官の補助として、証拠、争点及び法律的な疑問点の分析及び整理をしたり、説明用の専門分野の参考資料を提供し又は報告書を作成したり、質問及び証拠調べのサポートをする商業調査官を設置する。裁判所は商業調査官から特別な専門知識を取得した場合、当事者又は関係人に弁論又は意見陳述の機会を与えた場合に限り、それを判断の根拠とすることができる。
五、遠隔審理対象の緩和(第18条)
裁判所から遠隔の地に居住する当事者、関係人、法定代理人、手続代理人、専門家証人などの手続への参加を容易にするために、裁判所は適切と認める場合、申立てにより又は職権で、音声及び画像を相互に伝送するテクノロジー設備を用いて審理することができる。
六、商業調停前置手続の導入(第20条、第23条、第26条~第28条、第32条)
調停前置手続を導入し、調停に協力する商業調停委員として専門家を選任する。調停手続は、委員を選任してから60日以内に終結しなければならない。調停を順調に進めるために、当事者、法定代理人及び手続代理人は、調停日に必ず出席しなければならない。正当な理由なく出席しなかった場合、裁判所は30万台湾ドル以下の罰金を科すことができる。商業調停が成立した場合、申立人は、申立手数料の四分の三を返還するよう請求することができる。
七、審理の計画、審理計画の協議(第38条~第40条)
審理効率を高めるために、裁判所は、審理手続をどのように進めるか事前に審理計画を策定して、当事者双方と審理計画について協議しなければならない。
八、当事者照会制度の導入(第43条、第45条)
訴訟前の段階において、当事者の関連情報収集の機会として、当事者は、裁判所の指定期間内又は準備手続の終了前に、事実又は証拠に係る必要事項を列挙して、他方当事者に照会し具体的に説明するよう求めることができる。他方当事者は、原則として説明義務を負うため、正当な理由がなく説明を拒否した場合、不利益な認定を受ける。
九、専門家証人制度の導入(第47条、第49条、第51条、第52条、第78条)
事実審の審理を充実させるために、専門家証人が専門的な意見を提供する専門家証人制度を導入する。専門家証人は、書面で専門的な意見を提供するほか、裁判所の許可を得て、口頭で意見を述べることもできる。裁判所は必要と認める場合、争点又はその他の必要事項について討論を行って、共同で書面で専門的な意見を提出するよう、当事者双方の専門家証人に命じることができる。また、専門家証人は、裁判長の許可を得て、尋問日にその他の専門家証人又は鑑定人に質問することもできる。専門家証人は、事件に係る重要な事項について虚偽の陳述をした場合、偽証罪に問われることになる。
十、秘密保持命令制度(第55条、第76条)
裁判所は、申立により当事者又は第三者が所持している営業秘密について、秘密保持命令を発することができる。秘密保持命令を受けた者は、当該営業秘密について訴訟以外の目的で使用し又は漏洩してはならない。使用し又は漏洩した場合、秘密保持命令違反罪を構成する。 |