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台湾 最高裁判所が実用新案技術評価書を
権利行使時の免責要件と認定

 
 台湾の知的財産裁判所は、20191231日に不当な権利行使に関する差戻し判決(108年度民専上更一字第1号。以下、本件という)を下した。この判決の主旨によれば、実用新案権者又は実用新案権者の地位を自任する者が、実用新案技術評価書を提示せずに、他人が自分の実用新案権を侵害した可能性があると対外的に主張し、その後、当該実用新案の登録が無効審判で取消された場合、実用新案権者が侵害告発の際に侵害対比報告書を根拠としたとしても、専利法、公平交易法及び民法などの関連規定に違反する可能性があるため、損害賠償責任を負い、新聞紙へ謝罪広告を掲載しなければならない。 

本件の経緯は次のとおりである。被告の法定代理人は、実用新案登録M476330号「不動産賃貸管理のための携帯用電子装置(以下、係争実用新案という)」の実用新案権者である。被告は、原告が運営するアプリケーションソフトウェアの一部機能と、被告が先に発表したアプリケーションソフトウェアの一部機能が類似することを発見した後、専利事務所に両アプリケーション製品を送って権利侵害の有無を確かめるための対比を依頼した。当該専利事務所は、権利侵害対比報告書で「両製品は機能、目的及び技術的特徴においてかなり類似している」と指摘した。そこで、被告は公平交易委員会に原告が公平交易法に違反していると告発した。被告の法定代理人(即ち、実用新案権者)も原告に対し権利侵害訴訟を提起した。被告は実用新案技術評価書を取得していない状況下で、記者会見やプレスリリースなどによりテレビ、紙媒体、インターネット媒体及び被告の運営しているウェブサイトにおいて、上記の事実を公表して、原告が被告及びその法定代理人が所有する実用新案権を侵害し且つ被告のアプリケーションを模倣した可能性があると主張した。その後、公平交易委員会は、原告が公平交易法に違反していないと認定した。係争実用新案は、原告が請求した無効審判で知的財産局によって取消され、被告の法定代理人が原告に対し提起した侵害訴訟も裁判所から敗訴の判決を受けた。原告は、被告が専利法第116条及び第117条に違反して不当な権利行使をしたと主張し、専利法、公平交易法の営業誹謗行為及び民法の名誉毀損に関する規定に基づき損害賠償の支払いと新聞紙への謝罪広告掲載を求めて、訴訟を提起した。 

専利法第116条、第117条には、それぞれ「実用新案権者が実用新案権を行使するときには、実用新案技術評価書を提示しなければ警告することができない。」、「実用新案権者の実用新案権が取消された場合、それが取消される前にその実用新案権を行使することによって他人に与えた損害について、賠償責任を負わなければならない。ただし、実用新案技術評価書の内容に基づいており、相当の注意をしたときには、この限りでない。」と規定されている。本件の主な争点は、第117条のただし書き中の「実用新案技術評価書の内容に基づいて」が、実用新案権者が免責されるための必要条件の一つなのか、或いは単なる例示的な規定にすぎないのかである(即ち、実用新案権者は、ほかの方法で相当の注意を払ったことを証明することができ、それにより免責可能となる)。 

本件の第一審及び第二審の裁判所はいずれも、専利法第117条のただし書き中の「実用新案技術評価書」が、実用新案権者自身に故意または過失のないことを立証する方法の例示にすぎないと認定し、実用新案権者が「実用新案技術評価書」に基づかないが、客観的な証拠をもってほかの必要な注意義務を果たしたことを証明できる場合、実用新案権者に権利侵害の責任を負わせるべきではないとした。本件の被告は係争実用新案の侵害対比報告書を根拠としており、既に必要な注意義務を果たしたため、不当な権利行使に当たらないとして、原告の請求は棄却された。原告はこれを不服として最高裁判所に上訴した。 

最高裁判所は、「専利法第117条の改正目的は、方式審査を経て実用新案権を取得した者が、権利を濫用し又は不当な権利行使をするのを防止することにある。実用新案登録が取消された場合、実用新案権者は他人に与えた損害について賠償責任を負うべきであり、その免責事由の立証責任も加重されるべきである。つまり、免責されるためには、実用新案技術評価書の内容に基づき、且つ相当な注意を払ったことを証明しなければならないと明確に規定されているため、「実用新案技術評価書」は実用新案権者が免責されるための必要要件であり、単なる例示ではない」との見解を示した後、本件の審理を知的財産裁判所に差戻した。 

知的財産裁判所は、差戻し後の裁判において最高裁判所の示した上述の見解に基づき、「被告は実用新案技術評価書を請求していない、つまり、実用新案権者の地位をもって原告が係争実用新案権を侵害したり、被告の所有するアプリケーションを模倣したりしたと主張しているが、被告には係争実用新案の有効性について合理的に信用できることを証明できるほかの証拠がないことから、被告が実用新案権を正当に行使しなかったことが分かる」として、専利法、公平交易法の営業誹謗行為及び民法の名誉毀損に関する規定に基づき、原告への損害賠償の支払いと、新聞紙への謝罪広告の掲載を命じる判決を下した。 

実用新案技術評価書の検索範囲は、専利法第115条第4項の規定によると新規性、進歩性、拡大先願による新規性喪失、先願原則に限られており、専利法第119条に定めているそのほかの実用新案権の無効審判請求事由は含まれていない。このことによって実用新案技術評価書の信頼性が高くなくなっているのだが、本件の判決によって、実用新案権者は権利行使をする前に、専利主務官庁に実用新案技術評価書を請求することが促され、これにより実用新案権者による方式審査制度を利用した実用新案権の濫用がある程度抑えられる点で、本件の判決は重要な意味をもつと言える。

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