事務所情報 | 出版物品 | 2003年3月
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中国法体系並びに中国知的財産法の中国法体系における地位

中国は一元多重立法体制を実施し、諸々の部門(1)が異なるランクの立法権を有する。立法権が権力拡大、個人利益・所属する団体の利益を保護する手段として、多くの部門が立法を相争ったため、法律名称及び分類が繁雑となった。具体的には、中央及び地方にそれぞれの法規があるほか、中央には全国人民代表大会によって制定された法律と国務院によって公布された行政規章及び国務院に所属する各単位(2)によって発布された通知、決定、審査批准があり、司法方面においては、法院又は検察院によって公布された各種法令執行意見がある。そして、各法令名称も、その段階又は発布機関の階級で区別していないため、その法制の段階、解釈権限及び適用の優先順序を判断することは難しい。特に効力が同級の規範的法律文書の効力と衝突する場合には、司法裁判に掛けて判決結果の不一致を引き起こす状況も発生している。

この法律体系の不明瞭さによって生じる問題を解決するため、2000315日第9回全国人民代表大会が「中華人民共和国立法法」を通過した。

以下、この立法法の重要なポイントについて説明する。



中国の立法権の分割

(1)法律の制定

 法律の制定権は「全国人民代表大会」(以下「全人代」と称する)及び「全国人民代表大会常務委員会」(以下「全人代常務委員会」と称する)に属する。前者は刑事、民事、国家機構及びその他の基本法律を制定、改正する権利を有する。「全人代」によって制定すべき法律以外の法律については、「全人代常務委員会」が制定及び改正を行う。

(2)行政法規の制定

 国務院は憲法及び法律の規定により、下記事項について行政法規を制定することができる。

(i)
 法律の規定を執行するため行政法規を制定すべき事項

(ii)
国務院が全人代及び全人代常務委員会の授権決定により制定する行政法規

(3)地方的法規、自治条例及び単行条例の制定

 法律、行政法規の規定事項を除き、地方的法規は、原則的に法律又は行政法規の執行又はその他地方的性質の事項について規定することができる。自治条例及び単行条例は、法律、行政法規の「基本原則」に反しない限り、当地民族の特徴に基づいて法律又は行政法規に対して便宜的規定を設けることができる。

(4)規章の制定

 国務院各部、委員会、中国人民銀行、審計署及び行政管理権限を有する直属機構は、法律及び国務院の行政法規、決定、命令に基づいて、その部門の権限範囲内で、法律又は国務院の行政法規、決定、命令事項を執行するため、規章を制定することができる。また、省、自治区、直轄市及び比較的大きい市(3)の人民政府は、法律、行政法規及び本省、自治区、直轄市の地方的法規に基づいて、法律、法規又はその行政区の具体的行政管理事項を執行するため規章を制定することができる。



法律の解釈

法律の解釈問題に関しては、全人代常務委員会の解釈が「立法解釈」に属し、最高人民法院の解釈が「司法解釈」に属する。両者とも有権解釈であり、法的効力を有する。

立法解釈は憲法が全人代常務委員会に与えた職権であり、立法法は下記二つの状況について全人代常務委員会によって立法解釈を行うべきものと定めている。その一つは法律の規定が一歩進んだ明確的、具体的な定義が必要な場合であり、もう一つは法律の制定後に新しい状況が発生し、明確に適用する法律の根拠が必要な場合である。

これに対し、司法解釈は、法律が最高人民法院に与えた職権であり、最高人民法院が人民法院の審判過程中、具体的に適用する法律の問題について解釈を行うことである。



法令の段階

1.憲法は法律より優位である。行政法規は地方的法規、規章より優位である。

2.地方的法規の効力は、同級及び下級地方政府規章より優位である。

3.省、自治区の人民政府によって制定された規章は、同行政区域内の比較的大きい市の人民政府によって制定された規章より優位である。

4.自治条例及び単行条例は、法により法律、行政法規、地方的法規に対して便宜的規定を設けてある場合には同自治地方において自治条例及び単行条例の規定を適用する。経済特区の法規は、授権により法律、行政法規、地方的法規に対して便宜的規定を設けてある場合には同経済特区において経済特区法規の規定を適用する。

5.部門規章の間、部門規章と地方政府規章との間は同等の効力を有する。各自の権限の範囲内で施行する。



法令を適用する原則

法律、地方的法規、自治条例及び単行条例、規章を適用する原則としては、特別法優先、新法優先、法令不遡及の原則等が定められているが、特定事項については過去に遡って効力を生ずることができることに、とくに留意すべきである。

法令の不一致が出た場合、関係機関によって如何に適用すべきかを裁決しなければならない。法律である場合は全人代常務委員会によって裁決する。行政法規である場合は、国務院によって裁決する。地方的法規、規章の間に不一致があるときは原則的に制定機関によって裁決し、機関が同じでないときは、上級機関、国務院または全人代常務委員会によって裁決する。



中国知的財産法の中国法体系における地位

(1)中国の知的財産権に対する保護の法律範疇

 中国の民法理論によれば、知的財産権は民事権利の一種に属する。1986年全人代常務委員会によって制定された「民法通則」の中、「民事権利」の章の第3節“知的財産権”について4カ条の条文(94-97条)を設けた。その具体的な規定は、①公民、法人が版権(著作権)を享有する。法により、署名、発表、出版、報酬を得る権利を有する。②公民、法人が法によって取得した特許権は法律の保護を受ける。③法人、個人経営工商業者、個人パートナーが法によって取得した商標専用権は法律の保護を受ける。④公民は自己の発見に対して発見権を有する。発見者が発見証書、奨金又はその他の奨励の受取を申請する権利を有する。公民は自己の発明又はその他の科学技術の成果について栄誉証書、奨金又はその他の奨励の受領を申請する権利を有する。その内容は著作権法、特許法、商標法及びその発明の奨励をカバーする。故に、中国の知的財産法は民法の範疇に属する。

(2)中国の知的財産法の立法

中国の知的財産法制度の歴史は非常に短く、改革開放の80年代初期になって始めて知的財産権の立法を開始する。但し、20年もない短期間の間に中国の知的財産権法の整備はかなり整っていて、成熟している。

以下の法律は中国の知的財産法の基本フレームである。

① 商標法 1982年に公布、1983年に施行。1993年、1995年及び2001年に3回改正

② 特許法 1984年に公布施行。1993年及び2000年に2回改正

③ 著作権法 1990年に公布、199161日より施行。20011027日に改正

④ 反不正競争法 199392日に公布、1993121日より施行

⑤ 電子計算機ソフトウェア保護条例 1991年に施行。2001年に改正

⑥ 集積回路の回路配置設計保護条例 200110月に施行

⑦ 知的財産権税関保護条例 199575日に施行

⑧ 植物新品種保護条例 1997年に施行

⑨ その他関係法律規定:民法通則、刑法、合同法、消費者権益保護法、相続法、税法、広告法、企業名称登記管理規定、特殊表示管理条例、技術導入合同条例など

(3)中国が今までに加盟した主な国際条約

 このほか、中国の知的財産権制度が樹立以来、次々と数多くの知的財産権の保護に関する国際条約に加盟している。今日まで中国がすでに加盟している主な国際条約は以下の通りであり、これらの条約又は協定は中国知的財産法の法体系の一部をなしている。

① 工業所有権の保護に関するパリ条約

② 文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約

③ 特許協力条約

④ 標章の国際登録に関するマドリッド協定

⑤ 標章の登録のための商品及びサービスの国際分類に属するニース協定

⑥ 国際特許分類に属するストラスブール協定

⑦ 特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約

⑧ 植物の新品種の保護に関する条約(UPOV条約)

⑨ WIPO著作権条約

⑩ WIPO実演、レコード条約



結 び

以上述べたことをまとめて説明すると、中国の法律体系はあまりにも複雑で各分野における法律、行政法規、地方的法規、自治条例、単行条例及び規章はますます増え続けている現在、解釈上、適用上様々な問題が生じるため、発布する機関から理解し、研究をしなければならない。

なお、中国の知的財産法は法体系の一環をなし、商標法、特許法、著作権法などは民法の特別法に属し、優先的に適用する。全人代及びその常務委員会はもちろん、その他の立法機関も自己の立法権限内に、全人代及びその常務委員会の制定した法律の規定に基づいて、知的財産権と関係ある行政法規、地方的法規を制定することができる。例えば、国務院が法律に基づいて制定した知的財産権に関する行政法規には、特許法実施細則、商標法実施条例、著作権法実施条例、特許代理条例などがある。地方的法規の場合、例えば各省、自治区、直轄市の人民代表大会常務委員会によって制定した特許保護条例がある。広東省特許保護条例、上海市特許保護条例などがその例である。従って、知的財産法体系の全体は横向(各知的財産権分野)または縦向(各クラス別の立法)を問わず、中国の法体系の中で既に相対的に完備されていると言える。





(1)
 立法法で言う国務院部門規章の「部門」とは同法第71条の中に言う国務院各部委員会、中国人民銀行、会計監査署及び行政管理職権を有する直属機構をいう。

(2)
 国務院に所属する各単位とは国務院の各部、委員会直属機構の概括的呼び方である。国務院に直属する事業単位だけを指すものではない。

(3)
 比較的大きい市とは省、自治区の人民政府所在地の市、経済特区所在地の市及びその他国務院の許可を得た比較的大きい市をいう。

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