台湾知的財産権局が、意匠出願の早期審査制度の導入及び
実体審査繰り延べ請求期間の改定を発表
台湾知的財産権局が2023年4月に発表した年次報告書によると、2022年における意匠出願の最初の審査意見通知書発行までの期間は平均5.9ヶ月であり、出願人がより短期間で意匠権の保護を受けたい場合、これまで各国の特許庁が提供しているような早期審査制度はなかった。しかしながら、知的財産局は、意匠出願人の出願戦略やポートフォリオ、製品化までのタイムスケジュール等を考慮し、2023年9月1日から、意匠出願について更に多元的で柔軟な審査サービスを提供する。その中には、新たに開始する「意匠出願早期審査試行作業方案」と、2018年から実施されている「意匠出願実体審査繰り延べ請求作業方案」の改定内容が含まれており、以下に紹介する。
意匠出願早期審査試行作業方案
本方案では、出願人は、意匠を出願したあと、知的財産局から審査開始の通知を受けてから、最初の審査意見通知書を受け取るまでに、下記の申請事由のいずれかに該当する場合、早期審査を申請することができると規定されている。当該申請事由は、(1)第三者による商業上の実施、(2)国内外で著名なデザイン賞を受賞した意匠、(3)スタートアップ企業による意匠出願である。また、申請事由を問わず、出願人は、知的財産局が設置したプラットフォームを通じて申請する必要があり、必要書類を全て提出した後、原則として2ヶ月以内に審査意見通知書が発行され、そして、試行期間中の政府料金は不要となっている。
前述した申請事由のうち、事由(1)については、第三者が商業的に実施していることを証明する書類、第三者の情報、実施行為およびその開始時期を記載した書類の提出が求められ、事由(3)については、スタートアップ企業とは、台湾の会社法または外国法律に従って法人組織設立登記を行ってから8年未満である会社をいい、すなわち、外国法人も適格申請者であり、また、受理件数は、同一年度に最大3件までに制限される。
そして、事由(2)の国内外で著名なデザイン賞は、①台湾のゴールデン・ピン・デザイン賞(Golden Pin Design Award)、②ドイツのiFデザイン賞(iF Design Award)、③ドイツのレッド・ドット・デザイン賞(Red Dot Design Award)、④日本のグッドデザイン賞(Good Design Award)、⑤米国のIDEA賞(International Design Excellence Awards)に限られている。台湾のデザイナーが参加する主なデザイン賞は、台湾のゴールデン・ピン・デザイン賞に加え、デザイン分野で「世界4大デザイン賞」とも呼ばれている、前記4つの海外のデザイン賞であるため、本方案の試行段階では前記5つのデザイン賞に限定された。
また、知的財産局の説明によると、一部のデザイン賞では、応募者が応募する前に、意匠を商品化することを要求するものもあり、出願人が商品化する前又はデザイン賞に応募する前に既に意匠を出願している場合、現在の最初の審査意見通知書発行までの期間は約6ヶ月であるため、受賞する前に意匠権が付与される可能性があり、その場合、早期審査を申請する必要はないが、多くの賞は、まだ商品化されていないデザインの応募を奨励することを理念としていることもあって、まだ意匠を出願していないデザインが応募後に受賞となった場合に、受賞したデザインの早期権利化を促すため、国内外で著名なデザイン賞の受賞が申請事由として本方案に含まれることとなった。
さらに、応募者は通常、デザイン賞に応募する時には、デザインコンセプトを伝えることを重要視する一方、商品化する時に、工程上の制約や商品化などを考慮して受賞したデザインを若干変更する可能性があるとの懸念に対し、知的財産局は、審査官は審査時に形式的に完全な一致を求めることはなく、全体的な視覚効果に大きな影響を与えない範囲であればデザインの細部に若干の変更があっても、「同一の意匠」の範囲内とみなされるため、早期審査の要件を満たすと説明した。
意匠出願実体審査繰り延べ請求作業方案
前述の早期審査制度とは対照的に、出願戦略を考える上で、公開時期を遅らせる必要がある場合、出願人は、意匠出願と同時にまたは出願日から1年以内に、知的財産局に実体審査繰り延べ請求を行うこともできる。当該制度は2018年から実施されており、出願人は請求の提出と同時に実体審査を続行する特定の期日を指定しなければならない。従来は、当該期日は出願日から1年以内とし、優先権を主張する場合は優先日から1年以内としなければならなかったが、現行の専利法では、出願人は最初の意匠出願日から6ヶ月以内に優先権を主張しなければならないと規定されているため、出願人が優先権を主張し、改定前の規定に従って実体審査繰り延べ請求を行った場合、実際の繰り延べの効果は6ヶ月しかない可能性があった。そのため、今回の改定では、続行する期日を優先日から1年以内としなければならないという制限を取消した。したがって、2023年9月1日から、優先権を主張してさらに実体審査繰り延べ請求を行う場合、意匠出願の公開を最長で1年6ヶ月まで遅らせることができるようになる。
前記2つの意匠出願に係る方案により、出願人は、実体審査を加速したり遅らせたりすることで、戦略的にポートフォリオを計画することが可能となる。当事務所は、引き続き実施状況を注視し、報道していく。
|