事務所情報 | 出版物品 | 2023年 03月
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知的財産案件審理法の2023年全面的改正のポイント

 

2008年の台湾の知的財産裁判所[1]の設立に伴い、知的財産案件に対する処理体制の強化を図るため、同年、一般的事件と比較して多くの特別な規定を設けた「知的財産案件審理法」が施行された。その後、2011年、2014年および2021年の3回の一部改正を経て、立法院は、20231月に当該審理法の施行以来、始めての全面的改正を最終可決した。改正では合計77の条文(36の条文を新規制定、41の条文を改正)が変更された。今回の改正は、過去の蓄積された実務事例をもとに、学理および外国の立法例を参考にし、より完備した営業秘密を保護する仕組みの構築と、より専門的且つ効率的で、国際的動向に対応した知的財産権の訴訟制度に重点を置いたものである。施行日は未定であり、2023年の後半になる見込である。最終可決案のポイントは以下の通りである。

 

 

1.   知商裁判所の専属管轄の範囲の拡大[2]

知商裁判所の設立時には、専属管轄が認められた範囲が明確に規定されていなかった。実務では、知商裁判所のみが知的財産案件の控訴審の管轄権を有し、第一審については可能な限り関連事件を集中させるために、知商裁判所が優先的に管轄している。知的財産権に関する紛争事件について、知商裁判所は、通常の裁判所と比較して、専門的知識を持つ技術審査官を設置しており、迅速的に審決できることから、実務ではほとんどの事件が知商裁判所で解決されていることに鑑み、今回の改正では、当事者の合意で管轄を定めた場合を除き、知的財産権に係る民事の第一審と控訴審ともに知財裁判所の専属管轄を認めることとした。また、審理の専門化を実現するため、上告審については、最高裁判所が知的財産権の専門法廷または専門組織を設置しなければならないことが明記された[3]

 

2.   営業秘密に関する事件の専門的審理

営業秘密侵害罪に関する刑事事件の第一審も知商裁判所の専属管轄を認めた。また、2022年に一部改正された国家安全法に合わせて、国家の基幹技術の営業秘密侵害案件については、高等裁判所と同レベルの第二審の知的財産法廷が第一審を管轄する[4]。営業秘密に関する事件において、裁判所は、相手方の弁論権の行使に影響しない範囲内で、当事者の申立てにより相手方による訴訟資料の閲覧を制限することができることが明記された[5]。また、法改正前に既に設けられている、営業秘密を保護すると同時に相手方の弁論権を保障する秘密保持命令制度について、当該命令に違反の罰則が引き上げられたとともに親告罪から非親告罪に改められた[6]。さらに、営業秘密刑事事件および当該事件の附帯私訴において、第一回公判期日前に、犯罪事実または損害賠償を証明・疎明するにあたり、書類または物証の内容が営業秘密に関係する場合には、当事者がその営業秘密を保護するために、別称やコードなどによる非識別化の措置の申立てをできるようになった[7]

 

 

最後に、被害者の権利を保障するために、営業秘密事件では刑事訴訟法における被害者参加制度を準用する[8]。刑事訴訟における裁判所・検察官・被告人の三者の関係において、被害者の訴訟上の地位が向上し、被害者の訴訟参加者としての主体的な地位が認められた。

 

3.   弁護士強制制度[9]と集中審理[10]

知的財産案件の高度な専門性に鑑み、当事者の権益保護を強化し、審理の効率を上げるため、第一審の訴額が150万台湾ドル以上の場合、または控訴審・上告審・再審の場合、弁護士強制制度が採用される。もし代理人を選任するべき時に選任しない場合には、当事者の訴訟行為が無効となる[11]

 

また、弁護士強制制度が適用される場合には、既に実務運用されている集中審理制度が同時に適用されることが明記された。裁判所は、争点の整理や証拠調査の順番や期日などを含む審理計画を当事者双方と協議しなければならず、そして、当事者の一方が審理計画に違反したり、期間を徒過して攻撃防御方法を提出したりした場合に失権規定により処理することができる。弁護士強制制度の関連措置として、当事者の負担を軽減するために、代理人に委任する資力がない当事者への訴訟救助制度[12]が設けられ、また、法定範囲内の弁護士費用を訴訟費用の一部として相手方に請求できることが明記された[13]

 

 

4.   査証制度[14]と専門家証人制度[15]

情報技術や人工知能などのテクノロジーの急速な発展に伴い、知的財産案件には高度な技術性と専門性が求められる傾向にあるなかで、知的財産権者は、証拠が被疑侵害者側に偏在し、侵害の立証が困難であるという問題に直面することが少なくない。訴訟における武器対等の原則を促進するため、日本特許法を参考にし、裁判所が権利者の申立てにより専門的知識を持つ中立的な専門家を選任して証拠収集を行うという査証制度を導入した。また、当事者が、特定の分野で専門的知識に精通した専門家証人による裁判所に事実・証拠・経験則の理解や判断するのに役立つ専門的意見の提供の申立てもできるようになった。査証人と専門家証人が、裁判所が適切な判断を下すための助けとなることが期待されている。

 

また、裁判所が事件ごとに当事者間の立証に関する証明度を適切に調整する権限を有することが明示された。権利者は自身の主張する権利が侵害されたまたは侵害される虞があるとの事実を疎明した場合には、裁判所は、相手方にそれを否定する事実および証拠について具体的に答弁するよう命じなければならない[16]

 

5.   紛争解決の一回性と判断の不一致の防止

現在、知的財産権の有効性をめぐる争いについて、知的財産局も裁判所も独自に判断できるダブルトラック制度が採用されている。当事者の訴訟上の負担を軽減させ、訴訟の進行と行政機関の審判を加速させ、そして、有効性について判断の相違を防止するため、司法と行政の機関間情報交換制度が設けられた[17]。裁判所は、被疑侵害者が訴訟において特許無効の抗弁の主張を提出する場合、または訴訟手続の終了時に、直ちに知的財産局に通知しなければならない。その通知を受けた知的財産局は、無効審判が係属中か否かを裁判所に通知しなければならない。また、権利者が訂正の再抗弁の主張を提出する場合には、権利者は、知的財産局に訂正請求の手続きを先に行わなければならず、そして、それを裁判所に陳述した後に、裁判所が訂正の適法性を判断できるようになることが明記された[18]

 

 

また、裁判所は、権利の有効性や訂正の適法性について、知的財産局に意見を求めることができ[19]、専用実施権が設定されている場合には、利害関係者の参加により、紛争の一回的解決の目的を達成するため、権利者または実施権者は、第三者との民事訴訟という事実を相手方に通知すべきであることが明記された[20]さらに、確定判決の法的安定性を確保するために、もし判決が確定した後に、その判決とその後知的財産局が下した審決の判断に相違が生じた場合でも、当事者がその確定判決に対して再審の訴えを提起することができないことが明記された[21]

 

6.   技術審査官の報告書のオープン性、透明性の向上[22]

知商裁判所の設立時には、専門的技術上の争点に対応するために、裁判官を補佐する技術審査官制度が設けられた。裁判官は、必要に応じて技術審査官にその職務遂行の結果について報告書を作成するよう命じることができる。しかし、その報告書の本質は裁判所内部の意見であると考えられ、裁判官の判断は、弁論の全趣旨および証拠調べの結果を斟酌したものであり、その報告書の見解に拘束されるものではないため、報告書を当事者に開示する必要がなく公開する規定がなかった。そのため、技術審査官制度が創設されて以来、技術審査官が作成した報告書が特許請求の範囲の解釈に対する裁判官の心証形成に影響を与える虞について外部から批判されてきた。今回の改正では、裁判所は、事件の状況に応じて争点や証拠内容などを明確化するのに役に立つと判断した場合に、その報告書の全部または一部を公開することができるようになった。そして、当事者の手続的・実体的利益を保障するために、裁判官は、判決を下す前に、技術審査官が作成した報告書に基づいて理解した専門的知識について、当事者に弁論する機会を与えなければならないことが明記された。

 

 

草案の一部否決

今回の改正では、当初起案された条項の一部が否決された。まず、当事者の申立てにより、一般の第三者から、書面で参考価値を有する専門的意見を募集するという、アミカスブリーフ制度を暫く導入しないことが決議された。この制度は日本の特許法や判例法を採用する国で導入されているが、現在、台湾では、憲法訴訟法のみがこの制度を採用している。専利制度は一定程度の公益性を有するが、アミカスブリーフ制度を導入するための関連措置がない現状では、実務で適切に運用できるか疑問が残り、導入する緊急性がないことを考慮して、当面は関係する条項を盛り込まないこととされた。また、当初、専利法および商標法に将来的に対審制が導入されるのに合わせて、知的財産案件審理法の草案にも関連の審理制度を盛り込んでいたが、専利法および商標法の法改正の進捗が予想どおりに進まなかったため、関係する条項が削除された。

 

 



[1] 202171日に「知的財産及び商業裁判所」に名称変更となった。以下、知商裁判所という。

[3] 知的財産案件審理法48、第62条、第64条。

[4] 知的財産案件審理法第54条。

[5] 知的財産案件審理法第32条、第33条、55条。

[8] 知的財産案件審理法66条第3項。

[9] 知的財産案件審理法第10条。

[10] 知的財産案件審理法第18条。

[12] 知的財産案件審理法第11条。

[13] 知的財産案件審理法第15条。

[15] 知的財產案件審理法第28条。

[16] 知的財產案件審理法第35条。

[17] 知的財產案件審理法第42条。

[18] 知的財產案件審理法第43条。

[19] 知的財產案件審理法第44条。

[20] 知的財產案件審理法第45条。

[21] 知的財產案件審理法第49条。

[22] 知的財產案件審理法第6条。

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