事務所情報 | 出版物品 | 2022年 09月
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メタバース関連の意匠は意匠権の保護対象である

近年、メタバースが注目されるようになり、それによってメタバースに関連した工業上の様々な意匠も次々と登場しているが、このような意匠が知的財産権の保護対象になり得るかどうかについては、議論する価値がある。実務ではこれに関する出願案件がまだ少ないこともあって、積極的な出願を促進する為に、台湾知的財産局はメタバース関連の意匠登録の出願方法について、潜在的な出願人にガイダンスを提供する記事[1]を発表した。この記事は、専利審査基準が改定されるまでの間、審査官が関連する出願を審査する際の基準となり得るものである。

まず、専利法第121条の意匠の定義によると、「意匠とは、物品の全部又は一部の形状、模様、色彩又はこれらの結合であって、視覚に訴える創作をいう。物品に応用されるコンピュータ画像及びグラフィカルユーザーインターフェイス(GUI)も、本法により出願し、意匠登録を受けることができる。」 とある。したがって、メタバース関連の意匠は、「コンピュータプログラム製品」に応用されるコンピュータ画像またはGUIに該当し、意匠権で保護される視覚的な外観に属する。

現在の国内外の登録例をまとめると、メタバース関連の意匠は基本的に「仮想空間」、「仮想オブジェクト」、「ヒューマンマシンインターフェース」の3つに分類できる。出願にあたっては、それぞれ意匠権の保護対象となるカテゴリーを参考にして表現することが可能である。仮想空間は内装の手法を参考にし、NFTまたはオンラインゲームのアイテムのような仮想オブジェクトは物理的な物品の手法を参考にし、そして制御操作によってメタバースと繋がるヒューマンマシンインターフェースはGUIの手法を参考にして出願することができる。ただし、応用される物品は「コンピュータプログラム製品」と記載しなければならない点について、注意する必要がある。

意匠の実体審査では、参考対象となるカテゴリー(即ち、内装、物理的な物品、GUI)に基づき、出願前に公然知られた意匠(公知意匠)と同一または類似であるか否かの判断が行われる。また、応用される物品についても同一または類似であるか否かの判断が行われる。メタバース関連の意匠は「コンピュータプログラム製品」に応用されるので、物理的な物品と用途が同一または類似しないことから、物理的な物品に応用される同一または類似の意匠を新規性喪失の判断の根拠として引用することはできない。例えば、「車」と同じ外観をメタバースにおける「バーチャルカー」に転用して、「コンピュータプログラム製品の画像」として出願する場合、「車」と「コンピュータプログラム製品」は用途が同一または類似しないので、「車」は「バーチャルカー」の新規性の有無を判断する際に引用することはできない。

しかし、創作非容易性の審査では、公知意匠と応用される物品が同一または類似することに限定されない。そのため、物理的世界の公知意匠の外観をメタバース(即ち、コンピュータプログラム製品)に転用した場合、公知意匠に基づいて容易に思いつくと判断され、創作非容易性を有しないとの理由により拒絶される可能性が高い。つまり、「車」と同一の外観をメタバースの「バーチャルカー」に転用し、「コンピュータプログラム製品の画像」として出願した場合、「車」は、「バーチャルカー」の創作非容易性を有しない判断の根拠として引用することができる。

また、知的財産局は、メタバース関連の意匠に対する意匠権取得後の効力についても説明した。専利権侵害要点によると、侵害被疑対象と係争意匠は応用される物品が同一または類似であるか否か、外観が同一または類似であるか否かを判断しなければならない。物品が同一または類似であるか否かの判断については、主に一般消費者が商品を実際に購入または使用する観点から、物品の用途を基準として判断する。メタバース関連の意匠は意匠権が付与された後、その保護範囲は応用される「コンピュータプログラム製品」によって生成された仮想の外観にのみ及び、物理的な物品の外観には及ぶことができない。即ち、このような意匠権の効力は物理的な物品には及ばない。出願人が1つの意匠権で物理的世界とメタバースともに意匠を保護したい場合、現段階で知的財産局はまだこの状況に関して規定していないので、完全な保護を得るためには、出願案が登録される前に物理的な物品と仮想オブジェクトを別々に出願する必要がある。これは登録後も指定商品・指定役務を追加するために別出願できる商標と異なる。

ただし、意匠権により保護されているからといって、コンピュータ画像またはGUIを生成するために使用されるコンピュータプログラムの著作物が著作権法で保護されるというわけではない。メタバース関連の知的財産権については、まだ解決していない法的な問題が多くある。例えば、ブロックチェーン技術によって作られたデジタル資産は簡単に破壊することができないため、権利侵害をする者に対してどのように侵害の排除または防止を請求する権利を行使するのか、そして、インターネット上に存在する仮想世界において、知的財産権の属地主義をどう解釈するのかも問題になる。このような問題は、新興テクノロジーに関する法律によってさらに定義し、実務的な側面から法的な答えを探し出す必要がある。



[1] 経済部知的財産局、「メタバースと意匠登録の関係」(2022627)、[https://www.tipo.gov.tw/tw/cp-85-910395-b3a07-1.html]

 

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