事務所情報 | 出版物品 | 2022年 06月
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台湾における職務発明の適当な報酬を認定する際の規定及び現状の紹介

2014年にノーベル物理学賞を受賞し「青色発光ダイオードの父」と呼ばれている中村修二教授は、20年前に元の勤務先である日亜化学工業株式会社(以下、日亜化学という)との間の一連の特許訴訟が世間でよく知られている。これは、中村修二教授が、日亜化学に在籍中、青色LEDに係る開発成果を取得して驚くほどの利益を日亜化学にもたらしたため、当該特許の発明者として相当な報酬を受け取れるはずであると主張し、2001年に日亜化学に対して提起した職務発明報酬に関する訴訟である。この訴訟は、2005年1月11日に和解金8.44億円でようやく幕を下した。これをきっかけに、「職務発明の適当な報酬とは何か」ということが関連業界で注目され始めた。

日本では2004年と2015年に『特許法』の改正が行われた。職務発明をめぐる利益の均衡については、改正後の特許法第35条に従業者に利益の支払を受ける権利を付与することが明確に規定され、また、雇用者と従業者が協議を行う際にしなければならない手続及びその状況などを明確にするために、日本経済産業省によって具体的な指針(ガイドライン)が制定された。一方、隣国の中国では、『専利法』第6条、第15条に、職務発明創造の発明者又は創作者に奨励を与えなければならず、且つ発明創造専利が実施された後、発明者又は創作者に合理的な報酬を支払わなければならないと明確に規定されている。双方の間に、職務発明創造に関する報奨及び報酬の方式と報酬の限度額について別段の定がないときは、『専利法施行細則』第76条から第78条までに規定されている報奨及び報酬の方式、最低限の金額などに基づき認定することができる。

台湾では、『専利法』第7条に「従業者の職務に属する発明、考案又はデザインは、その専利を受ける権利及び専利権は雇用者に帰属し、雇用者は従業者に適当な報酬を支払わなければならない。ただし、契約で別段の約定があるときは、それに従うものとする」と規定されている。ただ、当該条文には「適当な報酬とは何か」について詳細な規定がないため、雇用者、従業者の当事者双方が契約で約定し得る私的自治の余地を残しているとしても、説明不足の虞がある。実は、台湾の司法実務では、「職務発明に対する適当な報酬」に関する判例はあまり多くないが、ここでは4つの判例を挙げる。最初の2つの判例では、「給料」、「専利出願に必要な費用」等が専利法第7条に規定されている「適当な報酬」と見なすことができるか否かについて異なる見解が示されたが、雇用者、従業者の当事者双方にとって「職務発明の適当な報酬とは何か」を更に明確にする際の良い参考になると思われる。また、後者の2つの判例では、雇用者の支払った報酬が職務発明のもたらした利益と比較して相当であるかどうか、また、従業者が更にそれを理由として適当な報酬を請求することができるかについて、見解が分かれている。

ü   台湾高等裁判所93年度(2004年)労上易字第31号民事判決

原告(従業者、被上訴人)は、原告が米国特許(係争特許)を取得した際に被告(雇用者、上訴人)からもらった奨励金(係争奨励金)は給料の一部に属するため、専利法第7条の規定に基づき、被告は原告に係争特許の奨励金を支払わなければならないと主張して、訴訟を提起した。本事件の主な争点は、「係争奨励金は給料の一部に属するのか、或いは奨励的な給付に属するのか」ということにある。裁判所は、係争奨励金は、恩恵的・奨励的な給付であって、給料ではなく、労働基準法施行細則第10条第2号に規定されている「研究発明奨励金」に相当するはずであり、経常的に支払われるものではないと認定した。また、係争奨励金の支払いは、米国特許取得を条件とするが、これは台湾の法律に基づき取得した台湾特許のみを対象とする専利法に規定の約定の報酬範囲と異なるため、係争奨励金は法に定める対価に属するとの原告の主張には理由がないと認定した。

ü   台湾知的財産裁判所101年度(2012年)民専上字第40号民事判決

原告(雇用者、被上訴人)は、被告(従業者、上訴人)に対し在職期間中に給料を支払い、係争特許の出願に必要な費用の支払も承諾したが、双方は係争特許の帰属について契約で約定をしなかった。裁判所は判決で、原告は、被告が原告の資源・設備を用いて発明を完成し係争専利を出願したことや、既に被告に相当の対価を支払ったことを立証することができず、専利法における雇用者が従業者に適当な報酬を支払わなければならないとの規定と明らかに一致していないため、専利法第7条第1項の規定に合致するとは認定し難いとした。この判決から分かるように、本事件の裁判所は、その他の相当の対価を支払わず、給料と専利出願に必要な費用を支払うだけの場合は、専利法に規定している職務発明に対する「適当な報酬」とは異なるものと判断している。

ü   台湾知的財産裁判所108年度(2019年)民専訴字第9号 民事判決

被告(雇用者)は職務発明の奨励金に関する創作発明報酬規則を設けていた。原告(従業者)は、専利法第7条第1項本文に基づき、雇用者に対し適当な報酬の支払いを請求した。本件の判決書には、専利法第7条第1項における「契約で別段の約定がある場合」は同項本文の「適当な報酬」の例外規定であり、本件に係る報酬規則は『別段の約定』であるので、原告は専利法第7条第1項本文に基づいて適当な報酬の支払いを請求することができないという旨が述べられている。この判旨によると、職務発明規程或いは事前の合意など別段の約定がある場合は、その約定が優先的に適用されて、従業者は職務発明報酬が職務発明で上げた利益に比較して不相当であるという理由で、さらに適当な報酬を請求することはできない。

ü   知的財産及び商業裁判所109年度(2020年)民専訴字第112号民事判決

原告(従業者)が被告(雇用者)の設けた職務発明規程によって給料以外の報酬を受けたものの、裁判所はその報酬が適当であるかどうかを検討した。裁判所の結論は、「雇用者はすでに従業者に適当な報酬を支払った」というものであるが、この判旨によると、職務発明規程あるいは事前の合意などの別段の約定がある場合でも、従業者は職務発明報酬が職務発明で上げた利益に比較して不相当であるという理由で、さらに適当な報酬を請求することができる。

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