有名な映画の主題歌【君の心に刻んだ名前】の盗作騒ぎを
通して考える台湾における音楽著作物の保護

有名な映画の主題歌である【君の心に刻んだ名前】は、2020年第57回金馬奨（Golden Horse Awards）で「最優秀オリジナル映画歌曲（主題歌）賞」を、2021年8月23日に開催された台湾の音楽業界で絶大な影響力を持つ金曲奨（Golden Melody Awards）の第32回授賞式で「最優秀歌曲賞」を受賞したが、この曲のサビの部分のメロディの全体的な印象が、古い洋楽の「愛のファンタジー（Reality）」に似ているため、盗作ではないかとの論争が起った。それだけでなく、【君の心に刻んだ名前】は、目ざといネットユーザーから、中国のミュージシャンJINBAO氏の2019年発売のピアノ演奏曲「自由が丘」や2015年に発売された日本語の福音歌「主は我らの太陽」にも似ていると指摘され、インターネット上で瞬く間に話題となった。

【君の心に刻んだ名前】の三名の創作者は、この盗作騒ぎに対して「この歌はオリジナルソングであり、盗作は絶対にしていない」との声明を発表した。また、主催者である文化部影視局は、「【君の心に刻んだ名前】に著作権侵害の疑いがある場合、著作権法の規定により著作権者が提起しなければならず、知的財産及び商業裁判所によって厳格で専門的な判断が行われた後、文化部影視局は裁判結果に基づいて後続の処理を行う」と説明した。

専利（特許・実用新案・意匠の総称である）の侵害や商標の類否には判断基準がある一方、音楽作品においては明確な基準がない。台湾の裁判所は、音楽作品に係る紛争を審理する際、一般的に、双方の作品の全体的な印象、コードやリズムなどの組み合わせ及び専門家の意見を総合的に斟酌し、双方の作品が実質的に類似するか否かを判断する。従って、創作者は作品を発表する前に、Shazamなどのアプリケーションを用いて他の歌曲と類似するか否かを確認し、事前にデューディリジェンスを行うことで、将来的に、盗作の疑いがかけられるのを防いだり、それが発生する可能性を効果的に下げられると考えられる。そのほかに、著作権声明は創作者の身分を証明する一応の証拠とすることができるため、音楽作品のパッケージ、映像又は歌詞に著作権声明を表示することも対策として考えられる。また、著作権登録も、音楽作品の創作日、出版日及び創作者の身分を明確に証明することができるため、創作者の権益保障に有効な方法と言える。