事務所情報 | 出版物品 | 2021年 09月
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台湾の実務におけるポスト・セール・コンフュージョンの最新動向

 

台湾の商標法に規定されている「混同誤認」の概念は、長い間、「購買時点での混同」に限定されてきた。つまり、混同誤認は、消費者が第三者の商標と同一又は類似する標識が付された商品(被疑侵害品)を購買する際に発生する必要がある。従って、混同誤認を生じる主体は、必ず「購買者」であり、混同誤認が生じる時点は「購買時点」でなければならない。しかしながら、知的財産裁判所は2018年のLVMHと霈姬公司Peggy Beauty)の事件で、混同誤認について、商品の販売後に購入者でなくそのほかの潜在的な消費者に生じた場合でも、商標権侵害を構成すると認定した。また、知的財産裁判所は、2021年のRIMOWAと晶耀国際貿易有限公司の事件で、ポスト・セール・コンフュージョン(post-sale confusion、以下「販売後の混同」という)も、公平交易法第22条(著名な商品の表徴の侵害)に規定されている「混同」の態様の一種に属すると認定した。この二つの事件は、それぞれ商標法と公平交易法において販売後の混同を認めた先駆的な判決が下された事件であり、弊所は後者の代理人を務めた。

 

販売後の混同理論は、米国商標法に由来するもので、購買者でない消費者が、被疑侵害品が他人に使用されているのを見たときに、当該商品が商標権者に由来するものであると誤解することを指す。「購買時点での混同」と「販売後の混同」の最大の違いは、(1)混同誤認が生じた主体(前者は購買をする消費者で、後者は購買をしていない消費者である)及び(2)混同誤認を生じた時点(前者は購買時で、後者は販売後である)にある。米国裁判所の数多くの判決によると、販売後の混同は、米国商標法に規定されている商標権侵害に必須の「混同誤認のおそれ」の要件を十分に満たすとされている。

 

例えば、K-Swiss Inc.USA Aisiqi Shoes Inc.の事件では、米国のカリフォルニア中央地区連邦地方裁判所(United States District Court for the Central District of California)は、「事実上、販売価格帯及びこれらの靴を販売している店舗が類似していないとしても、当該事件において販売後の混同をもたらす可能性がある」との理由により、当該事件では混同誤認のおそれがあると指摘した。また、連邦第6巡回区控訴裁判所(United States Court of Appeals for the Sixth Circuit)は、General MotorsコーポレーションとKeystone Auto.Indus.,Incの事件で、販売後の混同の法理基礎について次のように綿密に論述した。「購買時点で混同を生じさせていなくても、模倣品は、依然として多くの点で公衆及び真正品の企業の利益を損なう可能性がある。例えば、(1)真正品と模倣品を区別するのに専門知識が必要とされる場合、模倣品を見た公衆及び後に購入する者が騙される可能性がある(2)模倣品が氾濫すれば、真正品の希少性(希少価値)が下がり、真正品の価値を低下させ、ひいては真正品を購入した者に損害を与えることになる(3)真正品の企業が、より経済的で安価な模倣品に対抗するために、品質への投資を抑えた場合、高品質な商品を求める消費者が損害を受ける可能性がある(4)品質が粗悪な模倣品を真正品と誤認した者がいた場合、真正品の企業が高品質によって得た名声が損なわれる可能性がある(5)模倣品が市場に氾濫した場合、真正品の企業が希少性(希少価値)によって得た名声が損なわれる可能性がある(6)公衆が真正品でない商品を購入してしまうことを懸念し、それによって販売数が減少した場合、真正品の企業が損害を受ける可能性があるなどである。」

 

欧州連合地域においても、販売後の混同理論は、一部の判決で欧州連合司法裁判所に認められている。Arsenal Football Club PlcReedの事件では、原告はArsenal商標の商標権者で、被告はArsenalの文字を付した商品を原告の許可を得ずに販売したが、その商品が正式なライセンスを受けていない商品であるとの説明を露店に掲示していた。欧州連合司法裁判所は判決で、「この事件では、一部の消費者が、特にReed氏によって販売され説明が掲示してある露店から持ち出された商品を見たとき、Arsenal商標が付されていることが、商品がArsenal Football Clubのものであることを保証するものと考える可能性があることは明らかである」と指摘した。また、欧州連合司法裁判所は、Anheuser-Busch Inc. Budějovicky Budvarの事件でも同様の見解を示し、「対象となる消費者(第三者の販売地点を離れた後で商品を見た消費者も含む)が、第三者が使用する商標を、商品が第三者に由来することを保証するものとして解釈するかどうかを確認しなければならない」と述べた。上述の欧州連合司法裁判所の判決に「販売後の混同」という文言は出てこないが、実質的に、販売後の混同は、欧州連合司法裁判所が混同誤認のおそれがあるか否かを判断する際の考慮要素の一つとなっている。

 

台湾では、商標法において「関連消費者」を明確に定義していないが、裁判所の従来の見解では「関連消費者」は「商品の購買時の消費者」に限定されているため、「購買をしていない消費者が、商品が販売された後に」混同を生じた場合に、「関連消費者」の混同に属するかという疑問が生じる。

 

LVMHと霈姬公司Peggy Beauty)の事件で、裁判所は、初めて判決の中で販売後の混同について検討を行い、それを認めた。この事件では、被告が使用した鍵はハンドバッグの付属品であり、原告がハンドバッグに使用し商標として登録した鍵とほぼ同じものである。被告は、「ハンドバッグに自分の商標を使用し、しかも当該鍵は商標でなく、単なるハンドバッグの付属品として使用しただけであるため、関連消費者が混同誤認を生じることはない。また、自社製造のハンドバッグを販売する際に、ブランドストーリーを明確に伝えているため、関連消費者に混同誤認を生じさせるおそれもない」と主張した。しかしながら、知的財産裁判所は、この事件の判決で次のように指摘した。「販売後の混同という点では、商標は商品の出所を示すものであると同時に、品質保証の意味もあるため、関連消費者は、選択購入時の特別な要因(例えば、価格の違い又はこの事件のようなその他の商標表示)により、商品が特定の商標権者に由来するものでないことを知っていたとしても、商品に完全に同一又は十分に類似の商標が使用されているため、その他の潜在的な関連消費者は、選択購入時の特定な要因がない状況では、その違いを区別することができず、混同誤認を生じることになる。この場合、商標権者が商標の品質を保証するために注いだ努力が損なわれるため、商標権侵害に該当すると判断すべきである。その典型的な例が、安価で販売された模倣品である。この種の商品を選択し購入した関連消費者はほとんどの場合、購入したのが模倣品であることを認識しており、混同誤認の問題はないが、模倣品が市場に氾濫している場合、真正品の希少性(希少価値)に影響を与え、ひいてはブランドの価値が損なわれることになる。販売後の混同を商標権侵害の法理基礎としない場合、関連消費者が選択購入時に混同誤認を生じるおそれがない理由を説明するのは難しい。従って、このような模倣品の販売は、商標権侵害行為の態様に含まれるべきである。」

 

RIMOWAと晶耀国際貿易有限公司の事件では、RIMOWAは、被告が販売するスーツケースの外殻にRIMOWAが所有する著名な商品表徴である「グルーブデザイン」と同一又は類似のデザインを使用し、関連消費者に混同誤認を生じさせたため、公平交易法第22条の規定に違反していると主張した。被告は、双方の商品の売価及び販売ルートのいずれも異なるため、関連消費者に混同誤認を生じさせることはないと反論した。知的財産裁判所は、本事件の判決において、「販売後の混同とは、消費者が模倣品の購買時に、混同誤認を生じなかったとしても、模倣品の購入後、その模倣品を見たその他の潜在的な消費者が、模倣品と真正品とを混同し、真正品の質が低下したと誤認して、真正品を購買しなくなることを意味する。販売後の混同誤認は、知らない間に『潜在的な』消費者の真正品に対する購買意欲に影響を及ぼす。それは、商標の識別機能及び出所表示機能が破壊されたためである。販売者が、購買者に当該商品が真の商標権者が製造した商品と違うものであると明白に伝えたとしても、販売後の混同誤認は依然として生じるため、禁止されるべきである」と指摘した。

 

上記の二件の判決からわかるように、知的財産裁判所は、既に商標法及び公平交易法における「関連消費者の混同誤認」の概念を、被疑侵害品の販売後に潜在的な消費者に生じる混同にまで拡張し含めている。したがって、今後の商標権侵害事件及び公平交易法第22条(著名な商品の表徴の侵害)に係る事件においては、販売後の混同を訴訟戦略に加えると共に、それを双方の攻撃防御の焦点の一つとすべきである。

 

販売後の混同を認めることは、商標権者の挙証責任の軽減につながる。例えば、ラグジュリアーブランド企業は従来のように苦労して裁判所を説得する必要がなくなるかもしれない。被疑侵害品が真正品の販売価格の10%以下の値段で道端の露店で販売されていても、当該商品を購買する消費者が、購買時点で混同誤認を生じるおそれがあるため、ブランド品の企業は、裁判所が今後も引き続き販売後の混同を認めることを期待している。理論においても実務においても、販売後の混同理論の今後の動向には、引き続き注目していく必要がある。                                              

 

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