事務所情報 | 出版物品 | 2020年 9月
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中国 商標が悪影響を及ぼすものかどうかの判断基準

 
 消費市場に迎合するために、商業活動は、消費者が言い易かったり、消費者の注意を引くような商標を使用して行われていることがよくある。ただ、商標は、商品又は役務の出所を表示する機能以外に、消費者の権益保護や道徳・倫理の順守などの公益性も考慮するため、台湾も中国も法律で公序良俗や道徳観念に違反する商標の登録を明示的に制限している。しかしながら、公序良俗及び道徳観念等は不確実な法的概念であり、時代や地域によって解釈も異なる。中国の北京市高級人民裁判所は、2019年に「MLGB」事件で商標の登録が道徳観念に違反するか否かを判断する中国商標法の規定1 について詳細に説明をした。本事件について以下に説明する。

本事件の係争商標は中国第8954893号の「MLGB」で、上海俊客貿易有限公司(以下、「上海俊客公司」という)が2010年12月15日に、第25類の被服、ウェディングドレス、靴、帽子、ネクタイ、マフラー、ベルト(被服用)、スポーツシャツ、新生児用被服の商品を指定商品として出願したもので、2011年12月28日に登録が認められた。

その後、第三者が2015年10月9日に係争商標に対し無効宣告を請求した。商標評審委員会は2016年11月9日に以下の理由で、2001年の商標法第10条第1項第8号の規定により係争商標の登録を無効とする決定を下した。

  1. 係争商標は英文字「MLGB」からなるもので、当該英文字の組合せは、インターネットなどのソーシャルプラットフォームで広く使用されており、「媽了個逼」(中国語の下品な罵倒語)の意味がある。これには、下品で且つネガティブな意味合いがあるため、商標として使用すると、社会主義の道徳・風習を害し、悪影響を及ぼす可能性がある。

  2. 上海俊客公司は、係争商標は「My Life’s Getting Better」を意味すると主張したが、上海俊客公司の提出した証拠からその意味が既に公衆に広く認知されていることを証明するのは難しい。逆に、公衆は「MLGB」を上述の下品な用語として認識しやすい。

 上海俊客公司はその決定を不服として北京知的財産権裁判所に行政訴訟を提起した。北京知的財産権裁判所では、係争商標の登録が商標法第10条第1項第8号に規定する「社会主義の道徳・風習を害するもの又はその他の悪影響を及ぼすもの」に該当するかについて意見が分れた。多数意見は、「係争商標を使用した商品を使用する層は、ほとんどがその下品な意味を知っており、上海俊客公司は登録出願のときに、低俗な趣味及び反逆精神に迎合する意図があった。このほか、特定の層にとってのみネガティブな意味合いを持つ標識であっても、社会全体の道徳・風習に影響を及ぼすこともある。係争商標登録を維持すると、低俗さ、奇抜さをファッションとして追いかける悪しき誘因を生じさせやすくなる。そして、この悪しき誘因は、直接青少年に影響を及ぼし、その有害な結果として、必ず社会全体の道徳・風習に悪影響を及ばすことになる。」というものであった。従って、第一審の裁判所は、係争商標の登録を無効とする決定は正しく、係争商標は無効とすべきであるとの判決を下した。

上海俊客公司は第一審裁判所の判決を不服として北京市高級人民裁判所に上訴を提起した。北京市高級人民裁判所は第二審判決において、商標標識又はその構成要素が商標法第10条第1項第8号に規定される「その他の悪影響を及ぼすもの」に該当するか否かの認定にあたっては、以下の四つの側面から総合的に判断しなければならないと指摘した。

  1. 「その他の悪影響」を判断する主体:商標法第10条第1項は、「公序良俗」を保護する観点から、関連標識について商標としての使用を絶対的に禁止する状況を規定したものである。従って、この問題の判断主体は公衆全体であって、商標の指定商品又は指定役務の「関連公衆」ではない。

  2. 「その他の悪影響」を判断する時点:一般的に、商標登録出願時の事実状態を基準とすべきである。但し、出願時に上述の状況に該当しなかったが、登録査定時に既に「その他の悪影響」を有していた場合、社会公共の利益及び秩序にネガティブで、マイナスの影響を及ぼすのを防ぐために、商標がこの項に規定する状況に該当すると認定することができる。また、商標権者の信頼と利益を保護する観点から、私益と公益の関係は合理的な均衡を図るべきであり、商標登録の維持が明らかに公序良俗に違反する場合を除いては、一般的に、登録日以降の事実状態を、商標が「その他の悪影響」を有するか否かの判断根拠とするべきでない。

  3. 悪影響がある意味を含むか否かの判断基準:一般的に、商標標識又はその構成要素の「固有の意味」に基づき判断をしなければならない。特に、個々の文字又は文字の組合せで構成される標識については、中国の公衆の一般的な認識を判断基準とすべきである。つまり、辞書、参考書などの正式な公式出版物又は公衆が広くアクセスできる「信頼性」を備えた情報伝達媒体によって確定された内容を基準とする。ただ、一般常識で関連内容が既に広く認識されている場合、十分に説明することでそれを確定することができる。また、特定の言語環境や状況において演繹、連想などの方式で形成された一般的でない意味を商標標識又はその構成要素に付加することは避ける。商標の意味に対する認識に相違がある場合、公衆の普遍的な認識に合致する結論を引き出すために、商標登録出願の主体、使用方法、指定商品又は指定役務などの要素を参酌して、商標の使用が社会公共の利益及び公共の秩序にネガティブで、マイナスの影響を与える可能性があるかどうかについて判断することができる。

  4. 悪影響がある意味を含むか否かの挙証責任:一般的に、商標が「その他の悪影響」を有すると主張する当事者は、挙証責任を負う。当事者が標識の固有の意味であると主張する場合、辞書や参考書などを提出して証明しなければならない。但し、商標の意味が一般常識で広く認識されている場合は、十分な説明をすれば受け入れられる。但し、商標の意味が不確定である又は広く認識されていない場合、単に特定の層の感覚所与だけで商標に特定の意味を持たせることは、避けなければならない。

本事件の場合、係争商標は英文字の「MLGB」からなり、当該文字は固定化された外国語の単語でないが、係争商標の出願日前のウェブページのスクリーンショット及びインターネットユーザー数の多さ、インターネットと公衆の生活との密接な関係などの要素を組み合わせ、インターネット環境では、「MLGB」を悪影響のある意味として使用する特定の層が存在するという状況を鑑みて、積極的にインターネット環境を浄化し、ポジティブな主流文化と価値観を確立するよう若者世代を導き、法的にグレーな方法で「三俗」(低俗/下品/世俗に媚びる)に迎合する行為を制止するために、司法の主流文化の意識継承と価値観誘導に対する役割として、係争商標自体にネガティブで、下品な意味があると認定すべきである。同時に、上海俊客公司は係争商標を出願するとき、「caonima」などの商標も出願していることから、世俗に媚びるという方法で不良文化に迎合する意図があったことは明らかであり、実際の使用においても、係争商標について、低俗、俗悪な商業宣伝をしたという状況がある。従って、二審の裁判所は、係争商標を取消すべきとの決定を維持して、上海俊客公司の上訴を棄却した。

本事件の判決から、商標標識が公序良俗に違反するか否かの主な判断ポイントは、商標登録出願の時点において、公衆が、当該商標標識が表す意味に対してネガティブや悪影響というイメージを持っているかどうかであることが分かる。このほかに、本事件において、裁判所は出願人のほかの商標出願案も本事件の出願案を評価するうえでの参考とした。従って、中国で商標登録出願するときは、商業活動が順調に展開するように関連消費者の好みに合わせること以外に、多くのリソースと人材を投入した後になって、商標が登録できなかったり、取消されたりして、企業にマイナスのイメージ付くことを回避するためにも、多方面から商標標識に対する公衆の持つイメージについて調査評価を行う必要がある。

 

中国では公序良俗又は道徳観念に違反する商標の登録を禁止する規定として、商標法第10条第1項第8号に「下記の標識は商標として使用することができない:(略)・・・(八)社会主義の道徳・風習を害するもの又はその他の悪影響を及ぼすもの」と規定されている。

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