事務所情報 | 出版物品 | 2020年 9月
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専利権侵害訴訟において
川上・川下の業者を共同被告とするべきか


 専利権侵害事件では、製造者と販売者が負う責任に関する見解が、従来から異なっている。中国の最高人民裁判所は、2018年の(2018)最高法民轄終93号の「格力」事件で、専利権者が被疑侵害物の製造者と販売者を共同被告として訴訟を提起したことは、必要的共同訴訟を構成することができると認定した。しかしながら、2019927日(2019)最高法知民終121号の「東華原」事件判決で、最高人民裁判所は、製造者と販売者が共同の権利侵害を構成しない場合、生産者と販売者双方の実施行為は相互に独立した行為に属し、必要的共同訴訟にもならないと認定した。

 最高人民裁判所は「格力」事件の裁定書に以下のように示した。

「第一に、権利侵害紛争において、複数の行為者が共同して権利侵害行為を行った場合、訴訟物の同一性に基づいて必要的共同訴訟を構成することができるが、必要的共同訴訟の範囲は、共同の権利侵害に基づいて形成される共同訴訟に限らない。複数の行為者がそれぞれ権利侵害行為を行って同一の損害を与えた場合、訴訟物の同一性及び判決の矛盾回避、当事者の利益保護などの対策理由に基づき、必要的共同訴訟を構成することができる。また、後者のタイプの必要的共同訴訟について、原告が一旦同一事件で複数の被告に対して共同訴訟を提起することを選択した場合、裁判所は被告の同意を得ることなく、審理を合併することができる。もちろん、原告が複数の被告に対して個別に訴訟を提起することを選択した場合、裁判所は必ずしも特定の訴訟において他の関連主体を追加し訴訟に参加させる必要はない。

第二に、専利権侵害事件で、専利権者が被疑侵害物の製造者と販売者を共同被告として訴訟を提起した場合、当該訴訟は後者のタイプ(筆者注:即ち複数の行為者が、それぞれ権利侵害行為を行って同一の損害を与えるもの)の必要的共同訴訟を構成することができる。その理由は1.訴訟物の同一性、2.判決の矛盾回避、3.経済面の考慮にある。

1.訴訟物の同一性

専利権者が被疑侵害物の製造者と販売者を共同被告とする場合、製造者と販売者がそれぞれ異なる権利侵害行為を行ったとしても、その権利侵害行為には密接な関連がある。被疑侵害物の製造者が被疑侵害物を製造し販売した後に、川下の販売者が行った販売行為は、製造者の製造・販売行為の自然な延長とみなされる。両者の対象となる被疑侵害物が同じであり、いずれも同一の被疑侵害物が専利権の保護範囲に入ることを基礎とし、且つ侵害の結果が部分的に重なっているため、一部同一の訴訟物を形成している。

2. 判決の矛盾回避

被疑侵害物の製造者と販売者に対する訴訟では、専利権の保護範囲に入る同一の被疑侵害物を主要な訴訟物とするため、両者を共同被告として併せて審理することで、判決が矛盾する可能性を効果的に回避し又は減少することができる。

3.経済面の考慮

被疑侵害物の製造者と販売者の訴訟を必要的共同訴訟として併せて審理すれば、権利者が個別に製造者と販売者を訴えて重複して利益を得る可能性が避けられるばかりでなく、権利者の権利維持にかかるコスト、当事者の訴訟コスト及び裁判所の審理コストを適度に低減することもできる。

最後に、この種の必要的共同訴訟には法的根拠がある。《最高人民裁判所による専利権侵害紛争事件の審理における法律適用問題に関する若干規定》の第6条第1項には、『原告が販売者に対し提訴せず、権利侵害物の製造者のみに対して訴訟を提起し、権利侵害物の製造地と販売地が異なる場合は、製造地の人民裁判所が管轄権を有する。製造者と販売者を共同被告として訴訟を提起する場合は、販売地の人民裁判所が管轄権を有する』と規定されている。この規定は、実際には、製造者と販売者を共同被告とした訴訟を後者のタイプの必要的共同訴訟として取り扱っている。本事件では、15件の被疑侵害物の製造者と販売者はそれぞれ奥克斯公司と広州晶東公司であり、格力公司は製造者の奥克斯公司と販売者の広州晶東公司を併せて共同被告としており、後者のタイプの必要的共同訴訟(筆者注:即ち複数の行為者がそれぞれ権利侵害行為を行って同一の損害を与えるもの)を構成している。」

 しかしながら、「東華原」事件で最高人民裁判所は、製造者と販売者が共同して権利侵害していない場合、製造者と販売者双方の実施行為は、相互に独立した行為に属し、必要的共同訴訟にならないと認定して、最高人民裁判所自ら上記の見解を覆した。以下は(2019)最高法知民終121号「東華原」事件の判決をまとめたものである。

 本事件の原告は北京東華原医療設備有限責任公司(以下、原告という)で、出願番号が2008102473644である特許「自動2煎薬煎じ器」(以下、係争特許という)を保有している。原告は一審で広州知的財産裁判所に対して被告である広東博宏薬業有限公司(以下、広東博宏薬業という)の実施行為は係争特許の侵害にあたると主張して、訴訟を提起した。その後、原告は一審の訴訟中に、湖北永安鑫医療科技有限公司(以下、湖北永安鑫という)を被告に追加するよう求めたが、一審の裁判所は被告追加の要件を満たしていないとして却下した。このほか、原告は、湖北永安鑫が被疑侵害物を販売、設置、検査納品したときには、2煎機能(つまり「液体貯蔵タンク」の技術的特徴)を備えていたものの、一審の現場検証で使用された被疑侵害物には、明らかに変更を加えた痕跡が残っていて、解体改造後の被疑侵害物には2煎機能がなくなっており、被告は故意に被疑侵害物を破損して、当該製品の提供を拒否し、立証を妨害した云々と主張した。

 裁判所の一審判決では、裁判所は既存の証拠から、「被告の広東博宏薬業は被疑侵害物を使用する行為を行った。被疑侵害物は第三者の湖北永安鑫から購入したものであるため、被告が被疑侵害物を製造したとの原告の主張は根拠に乏しい。このほか、被疑侵害物には「液体貯蔵タンク」の技術的特徴がないため、被疑侵害物と係争特許の請求項1の技術的特徴とは同一でも、同等でもない」とした。これにより、一審の裁判所は、原告の全ての請求を棄却する判決を下した。

 原告はこれを不服として最高人民裁判所に上訴を提起したが、最高人民裁判所は原判決を維持し、以下の見解を示した。

一、 被告追加に関して、知的財産権侵害の民事訴訟では、製造者と販売者が行った権利侵害行為に一定の関連性があるものの、製造者と販売者が共同侵害を構成しない場合、両者の実施行為は独立した行為に属し、必要的共同訴訟にもならない。権利者が先に販売者を訴えた状況下で、被疑侵害物の製造者を発見した場合、別の訴訟を提起して製造者の権利侵害責任を追及することができる。本事件では、原告は被告の広東博宏薬業に対して本事件の訴訟を提起した後、湖北永安鑫が被疑侵害物の製造者であることを発見した。原告は、別の訴訟を提起して湖北永安鑫の関連する権利侵害責任を追及することができ、必ずしも本事件で共同被告として追加する必要はない。従って、原審の裁判所が被告追加を認めなかったことについて、手続きに違法はない。 

二、 原告は、現場検証に使用された被疑侵害物は既に改変されたものであり、被疑侵害物は係争特許の保護範囲に入ると推定すべきであると主張したが、裁判所は、被疑侵害物の設置にある程度の不合理な点があるものの、被疑侵害物が被告によって改変されたことを証明する有利な証拠がないため、直接証明妨害の法理に基づいて被告の使用した被疑侵害物が権利侵害を構成したと推定することはできないと判断した。百歩譲って、たとえ広東博宏薬が被疑侵害物に対し改変を行ったため、係争特許の保護範囲に入ると推定すべきであるとしても、裁判所が審理した時に被疑侵害物の特徴が既に係争特許の請求項1と異なっていたことは、被疑侵害物を使用し続ける行為を停止したことに相当し、しかも本事件では、被疑侵害物は被告の会社が製造したものであることを証明する証拠もなく、使用した商品が原告の所有する係争特許を侵害するものであることを被告が知っているとする証拠もなく、被告は被疑侵害物の出所情報を提供できるため、民事上の損害賠償責任を負う必要はないと判断した。

 中国《専利法》第70条には、「専利権者の許諾を経ずに、製造され且つ販売されたものとは知らずに、生産経営を目的として専利権侵害製品を使用し、販売の申出をし又は販売した場合、当該製品の出所の合法性を証明することができるものは、賠償責任を負わない」と規定されている。また、《最高人民裁判所による専利権侵害紛争事件の審理における法律適用に関する若干問題の解釈(二)》第25条にも、「専利権者の許可を経ずに、製造され且つ販売されたものであると知らずに、生産経営を目的として専利権侵害製品を使用し、販売の申出をし又は販売し且つ当該製品の出所の合法性が証明可能な場合、人民裁判所は、上述の使用、販売の申出、販売の行為の停止を求める権利者の主張を認めなければならないが、被疑侵害物の使用者が、既に当該製品の合理的な対価を支払ったことを証明できる場合はこの限りでない。…(略)…合法的な出所とは、合法的な販売ルート、通常の売買契約などの正常な商取引方法により製品を取得することをいう。…(略)…」と規定されている。このことから、中国専利法では「製造」と「使用」、「販売」の行為に対しては異なるレベルの保護を与えていることが分かる。本事件では、裁判所は、被疑侵害物は権利侵害を構成せず、たとえ権利侵害を構成したとしても、被告は「使用した」だけで、しかも被疑侵害物の出所を提供することができるため、権利侵害の責任を負う必要はないとの見解を示した。 

 訴訟コストを軽減し、一括で紛争が解決するようにし、権利者が重複して賠償を得るのを避けるために、できるだけ同一の専利権侵害訴訟において、商品を製造・販売する川上・川下の業者が共同して応訴できるようにするべきと一般的には考えられている。しかしながら、行為者の被疑侵害物を製造して販売する行為と、販売業者のある行為者から被疑侵害物を仕入れた後で、消費者に販売する行為は、専利権侵害が独立に発生する原因に属し、同一の権利侵害事実ではないため、損害を生じる共通の原因はもちろんないという見解(例えば、台湾の知的財産裁判所の林洲富裁判官)もある。本事件において中国の最高人民裁判所は、2018年に下した格力事件の見解を自ら覆したことから、最高人民裁判所の本事件における関連の見解は、台湾の知的財産裁判所の林洲富裁判官の見解と同じであり、被疑侵害物を製造し販売者に販売した行為と、販売者が同一の権利侵害物を消費者に販売した行為は、共同訴訟の共同被告となる同一の権利侵害事実を有していないと判断したことが分かる。なお、筆者は、中国の専利権侵害訴訟では、変化の多い訴訟に固定化した戦略で対応するのではく、川上・川下の業者が権利者に損害を与えた共通の原因と事実、権利侵害の態様、及び各権利侵害者間の分業と関連度合いなどの事情を考慮して、専利権侵害の川上の製造者と川下の販売者又は使用者を共同被告とするか否か、及びその責任をどのように連帯して負わせるべきかを判断すべきと考える。

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